岩手の太陽と大地の力をぎゅっ
趣味から地域産業へ

オオニシファーム(大西ファーム株式会社)

岩手の野菜や食材を本格的なイタリアンの味に。味が決まるまで数百回も作り直したというソースは絶品。もはや料理に手放せなくなること請け合いだ

きっかけはリタイアした父の趣味的農業。それがいつしか、全国から求められる岩手の野菜加工品へと成長した。伝統的なイタリアンの手法と岩手の野菜のおいしさが合わさってできた品々は、世代を問わず愛されている。

趣味が高じて新たなステージへ

「はじめは趣味のようなものでした」と笑う大西道成さんは、岩手県二戸市にある高原野菜農家・大西ファームの“2代目”。2017年に他界した父の範道さんが会社経営者をリタイアしたあとに始めた農業を継ぐ。いわゆるセカンドライフ的に父が始めた農業ゆえ、かなり小規模でのスタート。ただ、野菜で商売をするには農協に頼らなければならないが、「ウチみたいな新参の農家はほかのベテランに太刀打ちできない」。範道さんの妹がイタリアに住んでいる影響もあり、温度管理が難しいためほとんど流通していないズッキーニの花など、日本ではなじみのない野菜の栽培も始めるようになった。イタリアと気候の違う日本で出荷できるレベルのものを栽培するために育て方を調べるが、もちろん日本語で書かれた教科書はない。イタリア語の資料を英訳してから読むといった地道な作業を根気強く続けた。
 その一方、母の英子さんは畑で採れたトマトを使って、ドライトマトを作り始める。ドライトマトもイタリアでは一般的な家庭料理でも使われる食材だ。知人のイタリア料理店に試してもらったところ、本場イタリアから取り寄せるものよりもおいしい! とお墨付きを得ることができた。

苦労して育てたズッキーニの花。イタリアではこれにひき肉などを詰めていただく一般的な料理だ。大西ファームでも夏になると出荷する。

適格な場所で作られるからこそ

それから大西ファームでは加工食品に注力するようになる。『ドライトマトのオリーブオイル漬け』やニンニクとアンチョビのディップソース『バーニャカウダ』、アンチョビとドライトマトの出汁が効いた『アクアパッツァ(魚介類のオイル鍋)ベース』など、手軽に本格的なイタリア料理を作れる品々を開発。どれも大西ファームで採れた野菜を用いて作られている。たとえばドライトマトなら「サンマルツァーノ」と呼ばれるイタリア原産の加工用トマトを使うのが一般的。だが、二戸の土地で栽培して作ったそれよりも、東北農研で生まれた「すずこま」で作ったドライトマトのほうが評判がよかった。「やはり土が合う、ということでは」と道成さんがいうように、最高の野菜は最適な土壌で育てられるということだろう。

オーバル型の品種「すずこま」は今やあまり作られていない地元の品種。もともと加工用だったが、ドライトマトにするとその真価を発揮した。大西ファームでは減農薬で作っている

太陽の恵みが栄養素を倍増

こだわりはそれだけではない。大西ファームのドライトマトはすべて天日干し。日本の気候ではトマトの半量がカビにやられてダメになることもあるが、機械で乾燥させるよりも味も栄養価もぐっと上がることから、天日で作ると決めている。もとより「すずこま」は“うまみ成分”のグルタミン酸や抗酸化作用があるというリコピンを多く含んだトマト。それを天日で乾燥させることで栄養素の含有量を倍増させることができるのだ。実際に大西ファームのドライトマトをそのまま食べてみると、噛むほどにじんわりとうまみが染み出てくる。酸味と甘みの絶妙なバランスも楽しい逸品だ。道成さんが「畑の昆布」と表現するように、料理に使えばさらにそのうまみを感じることができるだろう。とりわけプロの料理人からの高い評価を得るのもうなずける。

天日で自然乾燥させることでうまみ成分のグルタミン酸が生の状態の4~5倍になることがわかっている。ぎゅっと圧縮されたおいしさ

わかってもらうために、とにかく対話

こうして加工品の人気とともに農業が軌道に乗り始めた矢先、東日本大震災に見舞われた。二戸は内陸部ゆえ津波などの直接的な被害はなかったが、「東北」というキーワードだけで敬遠されてしまうのだ。
 「父は他界しているので、これは想像ですけれど」と前置きして、道成さんは当時のことを回想する。売上は落ち込み、一時は農業もやめてしまおうかと考えた。だが、実は加工品を売り込む際、地元では特に年配の人も多く日本でもなじみのない野菜やカタカナの名前が並ぶイタリアンの加工品はなかなか受け入れられなかった。それでもあきらめず、「これはね、岩手のニンニクとカタクチイワシをまぜたソースだよ」と、くどいくらい丁寧な説明を繰り返し、食べ方を伝えることで年配の人にも「おいしいね」と買い求めてもらった経緯がある。せっかくリピートしてくれるお客さんに申し訳ない――そんな想いで続けてきたのではないだろうか。これまで使ってくれていたレストランや商談会などに出かける際も、放射線量を測った細かなデータをもってじっくりとその安全性を説いて回ったという。

東京・銀座にある岩手県のアンテナショップ『銀河プラザ』に出店したときの父・範道さん。このときの日記にも「お客様とたくさんお話した」とつづられている

安心・安全・安定を目指して

徐々に人気が戻ってきたが、「地道に畑と連動していきたい」と道成さんは言う。ひとつは、商品開発には膨大な時間がかかるから。たとえば『ジェノベーゼ』は3万通りもあるレシピの中から40種を選びだし、実際に作っては畑で採れた野菜や地元の材料と最も相性のいい味を見つけ出してできたもの。毎日毎日ジェノベーゼを食べ続け、「正直、もう見たくない」と思うほどだったそう。
 それだけの苦労の末、開発したレシピストックは現在4~50種類にものぼる。とはいえ、材料はなるべく減農薬の自分の畑から採れた食材を使いたいことと、障がい者支援施設に製造を発注しているため、無理をさせず安定的に供給できることを目指すため手を広げ過ぎないつもりだ。「農業はお天道様とのつきあいで、自分ではままならないことも多いけれど、安心して食べられる岩手の味を多くの人に楽しんでもらえるのなら」とじっくり向き合うことに決めている。これこそが大西ファームが送る、ユニークな岩手の魅力なのである。

大西ファームのジェノベーゼとドライトマトを使って、自宅で簡単パスタ。トマトの甘みと酸味がソースを引き立たせ、シンプルながら奥の深い味に。粗目のグラインドで、バジルやナッツの歯ざわりが残っているところもいい。

企業情報COMPANY

企業名 オオニシファーム(大西ファーム株式会社)
住所 岩手県二戸市石切所字荒瀬5-2
TEL 090-4552-8445
URL http://onishifarm.p-kit.com/
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/hI044.html
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