久慈の味を全国へ
若手が担うオリジナル豆腐

嵯峨豆腐

「豆腐屋を継ぐ予定ではなかったけれど……」と、正直な嵯峨大介氏。しかし郷土愛に突き動かされ、ほかにない久慈の豆腐を再現するまでに

嵯峨豆腐の『秀』は1つ1500円。「高いね」と驚かれても、「それに見合う価値があるから」と嵯峨大介氏。豆腐そのものの価値を高めた二代目の奮闘に心揺さぶられる。

小さな集落の老舗豆腐店

岩手県・久慈の限界集落に育った嵯峨大介氏は、祖母の作った豆腐しか食べたことがない。もともと貧しい土地で、米ができないため大豆農家が多かったこともあり、小さな集落でありながら豆腐屋は多い。それゆえに近隣の人は豆腐の味に厳しそうだが、祖母の代から始めた『嵯峨豆腐店』は創業60年を迎えるほど長続きしている。
 嵯峨氏が地元に戻ったのは、都会での仕事にちょっと疲れていたからだ。次の仕事が見つかるまでの間、ほんのひととき実家で休もうと思っていた。が、そこで東日本大震災に見舞われる。海から離れているとはいえ、実家周辺でも断水が2週間も続くなど、転職活動どころではなくなってしまった。なすすべもなく実家で過ごすなら、と祖母から豆腐作りを教わった。
 祖母が作る豆腐は昔ながらの木綿豆腐だ。この地域では田楽がさかんゆえ、硬めの豆腐が好まれるという理由もあるが、実は絹ごし豆腐のほうが作るのが難しいということもあった。嵯峨氏が祖母から教えてもらったのも木綿豆腐。被災地や近隣に自作の豆腐を配るうち、豆腐店に活路を見出すようになったという。

祖母はすでに引退しているため、ひとりで『嵯峨豆腐店』を切り盛りする。祖母の時代と違うやりかたではあるが、しっかりと家業を受け継いでいる

“素人”だから、あえて選んだ険しい道

嵯峨氏には、自分が豆腐作りに関してはまだまだであるという自負があった。ただでさえ豆腐店が多いこの集落。通りに面してもいなければ看板もない小さな豆腐店が生き残っていくには――差別化を図るしかない。
 そんな折、久慈の在来種の大豆『山白玉(やましらたま)』が、生育が難しく存続が難しいと聞いた。会社員になる前、公務員になりたいという夢があった嵯峨氏。人の役に立ちたいという想いは幼少のころから。それが頭をもたげ、「じゃあ僕が」と立ち上がったのである。
 自宅前の小さな区画を耕し、農家からわけてもらった山白玉の種を植える。病気に弱い種だから、丁寧に育てて大豆を収穫しなければならない。大豆の育て方を独学で学んだ。在来種が消えてなくならないように、という想いもあるが、なんとしてでも、嵯峨豆腐だけのオリジナル商品を作りたかった。サラリーマンであった嵯峨氏にとって、農家の真似事をしながら豆腐を作るというのは大きな試練であっただろう。だが、自分で育てた山白玉で作った豆腐はコクがあるのにきめが細かく、豆の香りを伝える「秀でた」ものだった。味が安定するまで1年を要し、昨年やっと契約してくれる農家もできた。これなら継続して商品を作り続けることができる。完成した豆腐に『秀』と名付け、全国の百貨店などで自信をもって売り出すことにした。

隣接する畑で育てた『山白玉』。試行錯誤して育てたが、今年もたくさん実をつけてくれた。枝豆として食べても本当においしいのだそう

多くの理解者に支えられて

『秀』は1つ1500円というお値段。東京の百貨店でもお客から「豆腐にしては高い」と言われることもある。だが、育てにくい久慈の在来種『山白玉』を復活させ、大切に育て一から作り上げた豆腐。「それだけの価値がある」と嵯峨氏は言う。機械化した工場で輸入した大豆を用い、大量生産すれば価格は下げることができるだろう。でも、『嵯峨豆腐』の豆腐はそんなものではない。自ら価値を下げてはならないのだ。
 まだ木綿豆腐しかない『秀』。硬めの木綿豆腐は湯豆腐や麻婆豆腐などのように火を通す料理に使えば柔らかくなり食べやすくなる。そう案内しても「せっかく手間暇かけて作られているのだし、もったいないから」とそのまま食べる人が多いのだそう。もちろん、大豆の味を堪能するのならそのままでもいいのだが、価値を理解し「高くても」と買ってくれる顧客にはやはり舌触りがよく味の濃い絹ごし豆腐を提供したい。来年は絹ごしができる設備を整えて、新商品の開発を始めるつもりだ。
 「祖母から受け継いだ設備や技術だけれど、時代に合わせ、顧客の好みに合わせて変えていくことで真に“受け継ぐ”ことができる」。久慈の土壌に合った大豆と久慈の天然水で作られる地元の味。添加物がないからこそ長持ちするという特性もあり、全国に届けることが可能だ。嵯峨氏の挑戦は続く。

嵯峨豆腐の主力商品『秀』。スーパーで売られている「一丁」よりはだいぶ大きいサイズで、湯豆腐など調理して食べるのがおすすめとのこと
『秀』で作られたがんもはふんわりソフトで味わい深い。「火を通すと柔らかくなる」という嵯峨氏の言葉通り、そのまま食べるのとは違う食感も楽しみどころだ

企業情報COMPANY

企業名 嵯峨豆腐店
住所 岩手県久慈市山形町霜畑6-22-4
TEL 0194-75-2029
URL http://www.saga-tofu.jp
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/hI038.html
https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/hI038b.html
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