また帰りたくなる町に
岩手の新しい誇り『岩手革』

岩手革

中村氏自身がデザインし、いわて特産品コンクール2017でグランプリを受賞した縫い目の一切ないシームレス名刺入れ。「一生壊れない製品」をコンセプトに、金具や糸、ファスナーなど壊れやすい素材を一切使わずに健康な牛のポテンシャルを感じられるものを追求して制作した。

何もなくなった故郷で、人も文化も失われてゆくことを危惧した敏腕営業マンが、新しいブランド創成により復興を目指す。

故郷に帰る

もともと30歳で会社から独立しようと思っていたという中村俊行氏。自身も岩手の出身。だが妻の実家のある宮古で震災の被害を目の当たりにするまでは「起業するのも東京かな」なんて漠然と考えていた。幸い家族には犠牲者が出なかったものの、波にさらわれ多くのものが失われたこの土地を「“なにもない場所”にしてはならない」と考えるようになったという。「この悲惨な場所に、誰も暮らしたくなくなるのを防ぎたい」。自分がなんとかしようという想いが芽生えた。

大手広告代理店でならした「スーパー営業マン」中村俊行氏。若い人にもリーチする「岩手ブランド」を発信する

岩手産ブランドを守りたい

とはいえ当時は、サラリーマンであった中村氏。30歳になり盛岡市内で焼き肉店を起業した後も故郷のためになにができるかと考え続けていたあるとき、ドライブ中に山中で大きな「野良牛」に遭遇する。「なんじゃこりゃ?」その大きさに驚き、ちょっと調べてみるとそれは放牧で育てられる「いわて短角牛」であることがわかった。国内で生産される肉用種のうち、わずか1%しか肥育されていないという短角牛。岩手県は中でも肥育数が圧倒的に多く、地元産の高価なブランド牛だ。
 実は中村氏、それ以前にも短角牛との邂逅があった。自身の経営する焼き肉店でメニューに加えたことがあったのだ。採算が合わなかったこともあり、提供をやめてしまったが、その価値を最大限にアピールすることができなかったと悔やんだものだ。同じころに岩手県産の肉ブランド『麦香豚』の生産が中止となったこともあり、ブランドが消えるのを目の当たりにした。岩手県産のブランドがこれ以上消えることがないように。模索してたどり着いたのが、『岩手革』である。

商品によって皮目の見た目や手触りが違い、それぞれどの牛から得られた皮か把握している。どれもきちんと手入れすることで長持ちするものばかり。使うほどに味がでる

スーパー営業マンの名に懸けて!

「皮革も、人間の皮膚と同じ。ストレスがなければいい状態であるはず」。放牧によって肥育される短角牛の生涯は、中村氏が「野良か?」と見まがうほどに自由だ。サシを入れるために人工的に肥らされる牛と違って、ストレスがあるはずもない。皮革のコンディションは上々のはずだ。また、日本の鞣(なめ)し技術は非常に高いが、国産革製品の皮革はアメリカなどからの輸入であって、新鮮なものではないから、新鮮な皮革を使えばさらにすばらしいものができるのでは。なによりも、『盛岡さんさ祭り』で使われる太鼓の皮はすべて短角牛のものなのだというのが中村氏の心に刺さった。それだけの強度を誇る短角牛の革。これをもっと、いろいろな人が使用できるようにできないだろうか。カードケースや財布など、さまざまなデザインの商品を作り、新たなブランド『岩手革』として売り出す。「いいものはちゃんと売れる。かつて大手代理店でならしたスーパー営業マンの僕が売るのだから、必ず有名にしてみせる!」

デザイン、制作など地元の人々とともに手分けして動いているが、自分で機械と向き合い制作することも

唯一の純国産レザー

先述の通り、皮革のほとんどは輸入品だという。日本で生まれ育った牛の皮革で、日本で鞣され、デザインされ、売り出される皮革商品というのはこの『岩手革』が唯一となる。まさに国産、岩手産の、これまでになかった産業だ。加えて、『岩手革』では短角牛の生産者や個体までしっかり把握していて、商品につけられているシリアルナンバーからどの牛の皮革から作られているかまでわかるという。金属系鞣し剤を一切使用せず、昔ながらの植物由来タンニンなめし技術を採用。「口に入れても安全」な皮革製品だ。
 さらに中村氏はアツく語る。「岩手には闘牛の伝統もあるじゃないですか」。もともと身体の大きな短角牛は塩を内陸部に運ぶ役畜として活躍していたこともあり、その際、強い牛のあとを追う習性があることから、リーダーになる強い牛を闘牛によって選別する目的があったのだという。「文化って紐づいているんですよねぇ」。
6次産業となる『岩手革』。次世代に伝えるものは多い。

制作を担当している佐々木菜美さんと、今のところは二人三脚。ひとつひとつが手作りで量産はできないが、だからこそじっくり大切に使いたい皮革製品

企業情報COMPANY

企業名 岩手革
住所 岩手県盛岡市紅葉が丘36-21
TEL 019-613-5130
URL http://www.iwategawa.jp/
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/hI007.html
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