今までにない、新しい価値をもつものを

秀衡塗工房 丸三漆器(岩手県一関市)

丸三漆器五代目の青柳真氏。かつて広告代理店に勤めていた手腕を活かし、主に商品企画などを手掛ける

民芸品は使われてこそ。原点に立ち返り、使い勝手を考えた普段使いの漆器を開発する老舗工房五代目兄弟の挑戦とは。

伝統工芸品の新時代を担う兄弟

起源を平安時代にさかのぼる「秀衡塗」。岩手県の伝統漆器で、経済産業大臣指定伝統的工芸品にも認定されている。1本の木から削りだした碗をはな塗り、錆下地、上塗り5回……とじっくりと手間をかけて作られる。少しでも埃が入ったら1からやりなおし。光沢のある呂色仕上げが特徴だ。

そんな秀衡塗工房の老舗・丸三漆器は、五代目で代表取締役社長の青柳真氏と弟の匠郎(タクオ)氏による新たなブランドが注目を集めている。その名も『FUDAN』。普段使いしてもらうことを目的に作り上げた、これまでになかった漆器の“新しい価値”を追求する。

主力商品のお膳となる朴の木を削りだす職人。職人は全部で7人。それぞれ分業で、専門性が高い。
ひとつひとつ手作業で絵付けも行われる。ひし形の金箔と草花をモチーフにしているのが秀衡紋様の特徴

伝統と現代的生活のはざまに

「漆器というのは本来、何度でも修理して長く使うものなのです」。丸三漆器五代目社長の青柳真氏は言う。明治37年(1904年)に創業し、代々父から子へ、職人から職人へと受け継がれて115年。金と色漆をふんだんに用いたお膳や重箱、椀は、平安時代末期に奥州(東北地方)を治めた藤原秀衡が京都から招いた職人に作らせたことが起源といわれる。なにしろ岩手県は国内きっての漆の産地。漆器は縄文時代から作られていたといい、かつては一般家庭にも広く普及し、使われているものであったのだ。丸三漆器でも伝統を守り、そうしたハレの日に使うような、食卓を華やかに彩る商品を作り続けている。

色漆で富士が描かれた、伝統とモダン、洋の東西が交差する『漆絵ワイングラス 富士』は赤富士とペアで

一方で、現代人の生活スタイルの変化から、お膳や重箱は生活からだんだん遠ざかっていった。このままでは漆器はすたれてしまう。「夏場にも使える漆器を」といった声に応え、先代からガラス食器に漆を塗る方法を開発。『漆絵グラス HIDEHIRA』が誕生している。真氏はここから派生させて『漆絵ワイングラス 富士・赤富士』を開発した。ワインを注ぐと底に漆で描かれた富士山が浮かび上がって見える。伝統技術と現代のニーズが交差した、使うことによって活きる、これまでにない漆器が生まれた。

新ブランド『FUDAN』~普段使いの提案

古来の伝統を守りながらも新商品の開発に余念がないのが丸三漆器。一昨年(2017年)から弟の匠郎氏が塗師として加わると、兄弟は漆器の新たな“立ち位置”を模索しはじめる。

秀衡塗りといえば「秀衡紋様」と呼ばれる、ひし形の金箔に草花の漆絵があしらわれているものが多く、つややかかつきらびやかなことが大きな特徴だ。だが、お客からは「無地のものが欲しい」という声がたびたび聞かれた。また、漆器は扱いが難しい高級品で、なかなか普段使いというわけにはいかない。そんな印象も払拭したい。そこで開発したのが、新ブランド『FUDAN』である。

天然木から切り出した椀は、ひとつひとつ木目の風合いが違うため、同じものはふたつとないといえる
気軽で、そして着れば着るほど肌になじんでいくコットンのTシャツをイメージしたロゴマーク。デザインは兄・真氏の手になる

読んで字のごとく「普段から使えること」がコンセプトのこのブランド。原木から切り出して土台となる木地を作るが、「ガシガシ使える」ように耐久性の高い欅を使用している。やさしくふっくらと手になじむ丸みを帯びた形に、木目を活かし外側は布で拭いてマットに、内側は光沢をもたせた仕上がり。「拭漆(ふきうるし)」という技巧を用い、漆を器に塗り込んであるためはがれにくい。また、修理も簡単で、何度でも直して一生使えるように作られている。

使われてこその価値 自分だけの一品

触ってみるとその質感、するりとなめらかな手触りに驚かされる。まさに「手になじむ」という言葉がぴったり

軽すぎず、重すぎず。さらりとした手触りのおかげか、持ってみるとたしかにしっくりと手のひらに収まる感じ。長く使えば使うほど手になじむお椀。木目の模様が1つ1つ違うため、まさに世界に一つ、時間をかけて自分だけのひとしなに仕上がっていくのがこの『FUDAN』の魅力だ。真氏は言う。「秀衡塗はもともと民芸品なんです。民芸品とは民衆の文化から生まれた日用品のことで、高級品ではなく普段使いすることを目的に作られていたはず。『FUDAN』もそのように生活のなかで毎日使ってもらえれば、という思いで立ち上げたブランドです」。伝統技術をしっかりと踏襲し原点に立ち返りながらもまったく新しい漆器のありかた。その立ち位置こそ変わっても、漆器が食卓にもたらしてくれる豊かさはそのままだ。それこそが若き兄弟の生み出す漆器の“新たな価値”なのである。

企業情報COMPANY

企業名 秀衡塗工房 丸三漆器
住所 岩手県一関市大東町摺沢但馬崎10
TEL 0191-75-3153
URL https://hidehiranuri.jp/
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