使えば使うほど味の出る、自然からの贈り物

工房 蔓とにらめっこ

なんでも作ってしまう職人・鈴木俊光氏。作りたくなったらなんとしてでも作り上げる情熱と職人気質の持ち主

縄文時代よりこの地に根付く伝統工芸「奥会津編み組細工」。地元民にしか継承されないその技法を、モノづくりへの情熱と執念でモノにした職人・鈴木俊光氏の挑戦は続く

石の上にも三年 門前払いから一念発起

もともとモノづくりが好きだったという鈴木俊光氏。趣味は裏磐梯でカヌーを浮かべて遊ぶこと。米国からカヌー作りの本を取り寄せて、辞職を片手に半年の時間をかけて手製のカヌーを作り上げてしまった。書物を読み解くだけで技を習得するなんて、口でいうほど簡単なことではない。ただ、鈴木氏には「なせばなる!」という執念がいつもあった。

次に鈴木氏が興味を示したのは、「奥会津編み組細工」である。会津の山奥に伝わる伝統工芸で、材料は山に生えている山ぶどうなどの植物。これをどうにか加工して、ヒゴ状にして編み込んで籠や器などをこしらえる。縄文時代後期の遺跡・荒屋敷からも多数籠製品が出土しており、2500年もの歴史があることがわかっている。現代では福島県大沼郡三島町を中心に細々と製造されているが、職人には高齢者が多い。

すべて手作業。「工房にこもって常に蔓とにらめっこしているなぁ」、というわけで屋号も『蔓とにらめっこ』に決定したそう

さっそくその技術を学びたいと三島町を訪れた鈴木氏は、「住民票を持ってこい!」とあっさりと断られてしまう。数百年もの長い間、この土地に伝わる伝統技能。よそ者にはおいそれと教えられないということだろうか。だがそんなことではあきらめない鈴木氏。それならば、と編み組細工の研究をはじめ、なんと作り方を独学で覚えてしまったという。「それでも最初のひとつが完成するまで3年かかりましたけれど」と笑うが、それから10年ほどのキャリアを経て、今では本家三島町の職人たちにお墨付きをもらうまでに。押しも押されもせぬ、奥会津編み組細工の職人として名を馳せる。

コシノ・ジュンコのショーで実力を発揮

鈴木氏の躍進は今年(2019年)、形をもって世界に紹介されている。東日本大震災によって打撃を受けた福島県の地場産業の復興を目指し、福島県では2016年より日本を代表するファッションデザイナーのひとり、コシノ・ジュンコ氏とのコラボレーションでさまざまな商品開発に取り組んできた。3年目となる今年は『Amazon Fashion Week TOKYO』への出展という形でファッションを基軸にフクシマブランドを発表。そこに、鈴木氏によって編まれたコシノジュンコデザインのビスチェが登場したのである。

「同じ編み組細工でも“着る”のですから、籠を作るのとはまったく違う。どうすればいいのか?と悩んだけれど、やっぱり“為せば成る!”と」。突然の大役、白羽の矢が立ち、引き受けたときの心境を話す鈴木氏は、どこか楽しそう。試行錯誤しながらも、自分で設計するのが楽しいのだ。かくして出来上がったビスチェはランウェイを飾り、奥会津編み組細工にさらなる可能性を広げる役割を全うした。

命がけでつくる作品 長く使って

華やかな“表舞台”の裏に、奥会津編み組細工には過酷な製造工程がある。奥会津編み組細工は山ぶどうのほかに、マタタビやヒロロといった素材で編まれる。鈴木氏が山ぶどうを素材として選ぶのは、“持ち”がいいからだ。「せっかく使うのだから、長く使えた方がいい」という考えで、強度の高い山ぶどうの蔓のみを材料にしている。

蔓の皮をはいでヒゴを作る。山ぶどうの蔓は非常に丈夫なので、百年はもつと云われている
6月下旬、山に入って山ぶどうの蔓を採取し、持ち帰ってヒゴの状態に加工する。節の部分は自然の風合いが出るので、どのように使おうか、考えるのが楽しみ

森林管理署から許可を頂き、自ら山に入って山ぶどうの蔓を採取する。群生している場所などはもちろん秘密。自らさんざん歩き回って見つけた“穴場”だ。採取時期は梅雨時期の6月下旬ごろ。もちろん、熊なども活発に動き回っている時期だし、足元も悪いので、山に入るのは命がけだ。しかも、ひとりで山に入るため、背負った背負子(しょいこ)いっぱいに採れる分しか採取することはできない。希少な素材なのである。

およそ蔓3本分で1つの籠ができる。緻密に設計された編み組細工は頑丈なことが特徴のひとつ
底や側面の網目が一目たりともずれる事なくつながっており、見た目も非常に美しく仕上がっている

持ち帰った素材は約6ケ月、日向で乾燥させ、完全に乾いたら、使うときは少し湿らせると編むのに充分なやわらかさになるという。三元網代の組み合わせで、複雑な紋様を編み上げるのが、鈴木氏独特の手法。伝統技能をさらに進化させた、新しい奥会津編み組細工を作り上げた。「使えば使うほど、つやが出てくる。子から孫の代へと使いこんでほしい」。苦労して得た素材をひとつひとつじっくりと手作りする編み組細工。作家の想いが編み込まれている。

三元網代の組み合わせで編み込んだ枡網代編み、きれいなダイヤ文様の網目が浮かび上がっている

企業情報COMPANY

企業名 工房 蔓とにらめっこ
住所 福島県福島市飯坂坪野字発股内4-6
TEL --
URL https://www.instagram.com/niramekkodesu/
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