山とともに育んだ大切な籠
孫のようにかわいがって

工房 蔓とにらめっこ

「作品は孫のようにかわいい」とにっこり。素材の採集からデザイン、編み上げまで、大変な手間がかかっているからこそ、作品への想い入れが強い。

縄文時代からこの地に連綿と受け継がれてきた奥会津編み組細工。自然をそのまま凝縮したような、素朴な味わいが魅力の民芸品だが、その製造には驚くほどの手間がかかっている。この奥会津編み組細工に着想を得て独自の技術を編み出し、伝統工芸品に新しい風を呼び込んでいる鈴木俊光氏に密着した。

材料を足で探す

「あっ、ちょっと車を止めて! ほらあそこ、見えるかい?」
福島市から車を走らせること約1時間。山形県置賜地区の山中は、地元の人しか知らないような秘湯もあるものの、山菜採りのシーズンでなければほとんど一般の人がやってこない。おかげで緑も深く熊などの野生動物も闊歩する、大自然が残されている。取材時は秋も深まったころ。木々は落葉しており、やぶは枯れかけていたから、道路から少し奥まった場所にある木もかろうじて見分けることができる。これがグリーンシーズンだと、道路から森の中をうかがうことなどできないという。
鈴木氏が見せてくれたのは、ほかの木にしな垂れる山ぶどうの蔓。これが山ぶどう籠バッグの材料だ。年に数回、山に入って生えている場所を覚えておいて、毎年6月中旬から7月上旬までの梅雨の時期に採取に行くのである。管轄の営林署に伐採の許可を得て森に入るが、営林署の“お掃除”で刈り取られていることも。それゆえ、一か所だけでなく広い山中のいくつものポイントを抑えておく必要がある。自然に生えているものだから、山に入って探すしかない。山ぶどうは沢に沿って生えていることが多いが、シーズン中はちょうど熊の繫殖期にあたるため、沢にはメスを求めてオスの熊が集まってくる。経験に基づき独自に編み出した熊除け方法を用いて慎重に歩くが、いつ出くわすかわからない。まさに命がけである。

山へはいつもひとりで入る。山ぶどうの生えている場所を足で探し、記憶にとどめて翌年採集に戻る。住所も目印もない山中なのに、確実に記憶していて驚かされる。

制作への強い想い

沢には緑鮮やかなコケの生えた岩がごろごろしている。そんな中、背負子や鎌といった装備を身に着けたままぐいぐいとまっすぐに山ぶどうに向かって分け入っていく鈴木氏。「この蔓がね、湯飲み茶わんくらいの太さに育つまでに30年くらいかかるんですよ。これはそろそろいいかな、来年のシーズンにまた迎えに来ます」。以前にこの場所に生えているのを見つけてから、ちょうどいい太さに育つまで見守ってきたのだ。やっと採集できる、そのときを想うのか、鈴木氏の表情はやわらかい。
蔓の採集は過酷を極める。足元の悪い沢に沿って山奥まで分け入り、蔓を束にまとめて採集。採ったばかりの蔓はまだ水分を含んでおり、一束で数キロにもなる。1つの籠を作るのに三束は必要で約10キロにもなる。背負えるだけの量を背負子に積まなくてはならない。山を下りるころには数十キロにもなる荷を背にしながらも、次に作る籠のことを想うと苦にならないという。

山ぶどう蔓を根元から20~30cmほどから切り倒し、鬼皮を取り除き表皮だけを持ち帰る。残った20~30cmの蔓から新芽が芽吹き、また30年後に採取できる。

自ら技法を編み出した新・職人

ところで、奥会津編み組細工は福島県大沼郡三島町の伝統技術「二元網代」を用いて作られる。だが、鈴木氏の技法は「三元網代の編替え」という独特なもの。ほぼ独学で3年かかって編み出した。というのも、この奥会津編み組細工は伝統的に代々三島町民にのみ、受け継がれてきた歴史がある。それゆえ、町民ではない鈴木氏に技術を継承してくれる人はなく、とうとう自ら方程式を編み出したのだという。

蔓の幅が違っても木箱の大きさに合わせて編み目が狂わず美しく仕上がる。三元網代をマスターすると、さまざまな応用が利くため、文様の違う籠を作ることも可能だ。

自然のものに付加価値を

そこまでして、なぜ奥会津編み組細工に携わりたかったのだろうか。「自然から授かったものに付加価値をつけて世に出すと、100年でも使うことができる。これはすばらしいことじゃないかと」。山の植物は人知れず朽ちていくものだが、自分の力で長く愛され大切にされる逸品に生まれ変わらせることができる。そこに大きな魅力を感じるのだという。
 山とともに成長を見守ってきた蔓を採集し、乾燥させ、同じ幅になるよう割いて、なめして、編み上げる。じっくりじっくり、蔓と向き合いながら。「完成した籠はね、まるで孫のようにかわいいんですよ。売れていくと寂しくてね」。完成品を愛おしそうに見つめる姿が印象的だ。「今はね、“西海波”という編み方を練習しているところ。108の声を聴くまで、まだまだ作り続けるつもりです」。近い将来、また新しい技法が生まれそうだ。

方程式を編み出すまで、そして制作中もいつも「蔓とにらめっこしていた」。だから屋号もすんなりと『蔓とにらめっこ』に決まったのだそう。
風通しのよいところに保管すれば、100年はもつといわれる自然からの贈り物。多くのお客が一目ぼれして購入していくので、「セールストークはほとんどしたことはない」。

企業情報COMPANY

企業名 工房 蔓とにらめっこ
住所 福島県福島市飯坂町平野字発股内4-6
TEL 090-9536-3654
URL https://www.instagram.com/niramekkodesu/
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/hF030.html
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