お殿様に愛された江戸時代の味を今に伝える

御菓子師 玉嶋屋

本店のたたずまいもかつてのまま。のれんに「弘化2年(1846年)」とあり、江戸時代に創立されたことがわかる

カリカリした糖衣をまとうもっちりした本煉羊羹。ぷちん、つるんといただく過程が楽しい玉羊羹。どちらも“時代”に求められて生まれた経緯をもつ

参勤交代が作ったオリジナルの味

羊羹の歴史をさかのぼると、江戸中期ごろにできたものだという。お茶をたしなむ武家の人々だけが楽しめるもので、当時は庶民の手に届くものではなかったそう。福島県二本松市の御菓子師・玉嶋屋は、当時から奥州を治めていた各地の大名から所望された老舗。特に丹羽公の御用達であったといい、参勤交代で江戸に行く際にはその手土産として徳川将軍家にも献上されたという。

玉嶋屋現社長・和田雅孝氏。江戸時代の製法を守る一方、時代に合わせた商品開発にも余念がない

「参勤交代は歩いて江戸まで行きますので、7日ほどかかったわけです。しっかり日持ちするように、と作られたのが当方の本煉羊羹です」と、玉嶋屋社長の和田雅孝氏。竹の皮をあけてみると、うっすらと糖衣をまとった羊羹がお目見えする。このグラッセ状の羊羹が、「二本松羊羹」と呼ばれる玉嶋屋オリジナルの品だ。作ってから時間をかけることで溶けきれなかった砂糖が表面に浮き出てグラッセ化し、ちょうどお殿様の口に入るころにはさくさくした独得な歯触りの羊羹ができあがる。和三盆の上品な甘さはあっさりしていて、確かに上流階級の御菓子である。

福島産の楢薪と安達太良山脈の水

福島の楢薪を用いて強い火力で一気に炊き上げるのがコツで、この製法は江戸時代からずっと変わらない。昭和の時代には「餡練器」の導入も考えたが、先代が「どうも味が変わってしまう」と手作りのまま現在に至る。生産量に差が出るだろうと思われるが、楢薪を使うことがここでも功を奏す。「楢薪は強い火力を保つことができるんです。おかげで、水、寒天、砂糖、こしあんを練り上げるのに要する時間はほんの15分ほど。薪は持ちもいいので、1日に7回ほど煉ることができます」。熟練の菓子職人たちの手は目にもとまらぬ早業。

楢の木は福島県に多く見られる。点火するとすぐにでも非常に強い火力となるのが特徴。楢薪が味の秘訣と考えている
餡に水、砂糖、寒天を混ぜて強い火力で一気に練り上げるこの手法は、江戸時代からずっと守られてきた。15分間煉り続けるのはなかなかの体力を要するに違いない

箱詰めまですべて手作業で行われる。

製造工程だけではなく、なにも変わらないのは材料が同じということもある。江戸時代から使う小豆は北海道産、砂糖は和三盆。そして水は安達太良山脈に降った水がわき出でる湧水だ。なにも変えないこだわり。「江戸時代の味がどこまで通用するかわからないけれども」と控えめにほほ笑む和田氏だが、実はバレンタイン向けの羊羹やドライフルーツを使用し洋菓子風に仕上げたものなど新商品の開発にも余念がない。時代、時代に合わせていくのもまた、玉嶋屋らしさなのである。

洋菓子風の『宝潤羹』にはイチジクやオレンジのドライフルーツ、アーモンドがトッピングされている。さっぱりさわやかな味わい

戦時中に生まれたもうひとつの主力商品

玉嶋屋といえば、「玉羊羹」も有名だ。ゴムの中に入れられた、ころころとかわいらしい羊羹。つまようじなどでぷつっと刺すと、ゴムがはじけてぷるんと中身をいただくことができる。小豆のほかに抹茶、桃などの味があり、同じように楢薪を使用して昔ながらの製法で作っている。

玉嶋屋の定番商品、1口サイズの玉羊羹。

この羊羹の誕生は昭和12年、戦時下のことだ。時の県知事より、前線に出て戦っている兵隊さんへの慰問袋に入れるために、「日持ちのいい羊羹を」という要望があり、江戸時代より県下随一の御菓子師としてすでに名を馳せていた玉嶋屋に用命が下ったのである。出来立ての味を前線に届けるべく、開発されたのが、ゴムに羊羹を入れる方法。こちらは竹で包む従来の方法と違うため糖化しないのが特徴で、あっさりしているものの、不思議と二本松羊羹より甘味を強く感じる。そのやさしい甘さは戦地でさぞ疲れた兵士たちを癒したことだろう。

ゴムの中に羊羹を流し込み、輪ゴムで口をくくる。これもすべて手作業だが、手元が見えないほどのスピード感はさすが熟練の技

当時は「日の丸羊羹」と命名されていたこの羊羹、実は戦局が変わり物資が不足してくると製造を中止してしまう。玉嶋屋には優先的に砂糖などの原材料が支給されていたが、周辺の菓子業者に行き渡らないことを懸念した当時の店主が製造中止を決めたのだという。戦後まもなく、「玉羊羹」と名を改めて再発売され現在にいたる。味にもバラエティを持たせ、季節限定商品も。桃羊羹には白インゲンの餡と福島の桃果汁を使用しており、みずみずしさを感じる。ぷるんぷるんとゴムを割って食べる楽しみもあり、ひとつ、またひとつと手が伸びることはうけあい。個装されているので日持ちもいいのは、現代でもうれしいポイントのひとつだろう。味の良さだけではないこんな工夫が、長く愛される理由である。

企業情報COMPANY

企業名 御菓子師 玉嶋屋
住所 福島県二本松市本町1丁目88番地
TEL 0243-23-2121
URL http://tamasimaya.com/
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