奇跡的に残された店
地元を守る決意

かに船(株式会社アザスコーポレーション)

支援物資を携えほうほうの体で地元まで帰ってきた勝氏。人々がいなくなっていくのを目の当たりにしたからこそ、地元でふんばることを決めた

“あの日”、仕事で地元を留守にしていたその耳に入った一報は、ただ悪夢のようだった。あの惨状を目撃したからこそ、あえて「ここでやっていく」と決意を固めたアザスコーポレーション代表取締役社長 石井勝氏に話を聞いた。

いわきの磯料理屋の味を再現

ふんわりと炊きあげられたごはんの上にぎっしりと乗せられた海の幸。最も目を引くのは、なんといってもホッキ貝の殻にてんこ盛りになった『うに貝焼き』。福島県いわき市の名物料理のひとつだ。炭火で蒸し焼きにしたうには貝殻ごとトースターで少しあぶってからいただくと、炭火焼の香ばしさがよみがえり、甘みがぐんと際立つ。これだけでもパクパクいきたいところだが、ごはんと一緒にほおばれば磯の香が一気に鼻腔を抜け、これぞ磯の味! と思わず膝を打ってしまう。
 この『うに貝焼き』の商標を得ているのが、株式会社アザスコーポレーション。いわき市勿来(なこそ)に開店して50周年を迎える磯料理店『かに船』の物産部門で、店内でも提供しているメニューを弁当に詰めて全国の物産展などで販売している。
 同社の代表取締役社長・石井勝氏の父・忠勝氏は北海道出身。炭鉱の町、いわきに働きに来て、カニの専門店がないことから自ら“蟹づくし”を売りにする磯料理屋を海にも近い勿来に開いたのが『かに船』だ。ここで提供される定食のごはんは、酢飯でも白米でもなく、かに味噌を炊き込んだごはんだ。まさに蟹づくしで、物産展で勝氏が販売する弁当のごはんももちろんこのかに味噌ごはん。父と二人で、現代の味になるよう開発したものだ。父は『かに船』を切り盛りし、息子はその味を全国に広める。父子で最強のタッグを組んでいるのだ。

うに貝焼きが目を引くお弁当。かに味噌と一緒に炊いた名物のごはんがまた食欲をそそり、最後まで飽きずにいただける

自然災害、そして……

その日――2011年3月11日も、勝氏は東京の物産展で弁当を販売していた。そこに入った一報が、東日本大震災。未曽有の津波が故郷を襲ったと聞いた。電話もなにもつながらない。地元の誰とも連絡が取れず、公共の交通機関も止まっているのですぐには戻ることができなかったが、知り合いから借りたトラックに東京でなんとかかき集めた食料などの支援物資を積んで震災の2日後にいわきへと向かった。
 「この先は通れません」と通行規制される中を「子どもたちが残されているのです。私は地元民です。行かせてください」と訴えて通らせてもらった。車でいわきに向かう途中、すれ違うのはフクシマを逃げ出すいわきナンバーの車ばかり。誰もが故郷を脱出しようとしていた。近づくにつれどんどん景色が変わっていく様子に、正直、最悪の事態を想像した。
 地元にたどり着いてみると、ここには津波がこなかったことを知った。店も、家族も無事である。まさに奇跡的。だが、町には灯がなくなっていた。安心したのもつかの間、ここから石井親子の長い闘いが始まる。

国道6号線沿いに店を構えて約半世紀。創業当時、カニ料理は珍しかったが、今や『かに船』のかにめしはいわきの名物のひとつに数えられる

忘れない。大きな風穴

3月20日、『かに船』はあえて店を開けた。誰もいなくなった町。だからこそ、自分だけは「この地を守る」という気持ちだった。いわきに帰る途中、高速道路はどの車もいわきから出ていくものばかりだったのだ。ひとり、いわきへと向かう車の中で、勝氏の気持ちは固まっていったのだろう。
 だが、世間は厳しかった。これまでも物産展やその商談で全国に足を運んでいたが、震災後は「もう来ないでくれ」とはっきりと言われることすらあった。ただフクシマというだけで風評被害が起こっていたのだ。
 そんな折、震災から2か月後に物産展に最初に呼んでくれたのは、忘れもしない神戸のサンバイベントだった。うれしかったが、やはりいわきのナンバーでかの地に乗り込むのには恐怖感もある。また追い出されたら……。しかし、沿道では人々が手を振って迎えてくれた。いわきナンバーを見て、「東北、がんばれ!」と声をかけてくれたのだ。うれしくて泣きながら運転した、あの気持ちは今も忘れられない。

興味を持ってもらえたことに感謝

それからというもの、勝氏は「お声がかかればどこにでも行きます。どんなに忙しくても、決して断らない」と決めた。物産展はもちろん、商談でもなんでも、ただ「呼んでくれた」ということに感謝しつつ全国津々浦々どこへでも飛んでいく。通常、イベントの規模や日程などから売り上げを考慮して出店を決めるものだが、それは二の次。とにかく人と直接やりとりをすることで、福島の食の安全性と安心感を伝えることができるのだ。「福島の美味しいものを知ってもらって、いつか遊びに来てほしい」。そんな想いで続けている。完全復興のその日まで。

自ら調理もする勝氏。今はかに味噌ラーメンを開発中とのこと。「かにに始まりかにで〆る、蟹づくしの店です!」

企業情報COMPANY

企業名 かに船(株式会社アザスコーポレーション)
住所 福島県いわき市勿来町関田御城前16-1
TEL 0246-65-4631
URL http://kanifune.jp
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/hF003.html
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