若手とともに復興へと歩み出す
伊達家にも愛された雄勝硯

雄勝硯

大学を卒業して、職人の道を選んだ遠藤耀一氏。「なんでもチャレンジさせてくれる環境」と、モノづくりを楽しむ

東日本大震災の影響もあり、職人の数が片方の手で数えられるほどにまで減少してしまった雄勝硯。若い作り手がその未来を担う希望の光となっている。

世界に誇る宮城の石

どんな料理を載せようかな。鈍く光る黒い石皿にはなにを置いても映えそうで、手に取るだけでうきうきしてくる。ずっしりと重厚感もあるこの石皿、近年では国内外の洗練されたレストランでよく見かけるが、実は600年超の歴史を誇るスゴイやつだ。
そもそも石でできた皿、ということ自体がすごい。これだけ薄く石を切ることができるなんて……? この皿の素材は「黒色硬質粘板岩」の「雄勝石」。ミルフィーユのように層が重なっていて、薄く割れるのが特徴だ。それでいて強度があり、長い年月を経ても変質しないその特性を活かし、硯がさかんに作られている。室町時代の文献に、すでに採石場の名が出てくるほどの長い歴史があるという。黒く美しいその見た目もさることながら、ぴったりと合わさる蓋をつけることができる珍しさから、伊達政宗公にも愛されたことでも知られる。採石場も、公によって「御留山」に指定され一般の採石が禁止されたことも。今や硯だけでなくさまざまな形に加工され、国内外で人気を博しているのである。

切り出した石をうまく割ることで薄い皿状になり、それをきれいに加工する。漆黒の天然石の皿、というだけでかなり魅力的
伊達政宗に蓋つきの硯を献上したら、すっかり虜になったという。本体と蓋がぴったり合うのは、二つに割った石から作られるから

伝統は守り抜く 若手に期待を

そんな歴史も由緒もある雄勝石だが、多くの伝統工芸品がそうであるように、高齢化により、加工できる職人の数は減少傾向にあった。加えて、東日本大震災によって作業場を失ったりしたことから、さらに数を減らしてしまう。そのうえ、採石場までの道路も被災し通行止めとなり、車では行けなくなってしまった。雄勝硯生産販売協同組合も建物ごと流され、現在ある作業所とギャラリーは震災後に新しく建てられたものだ。あたりにはなにもないが、ここは以前、住宅地だったところ。材料の雄勝石もすべて流され、新しい建物とともに復興を目指してきた。
幸い、ボランティアの人々によって流された雄勝石が集められ、制作は続けることができた。だが、土地を離れた職人も多くこのままでは雄勝石の伝統が途絶えてしまう。組合は、若手を育て技術を伝承することにした。

伝統のために自分にできること

そうして大学での求人募集に応募し、入社2年目を迎えた遠藤耀一氏。初めて雄勝石に触れたのは、小学校のお習字の時間に使っていた硯。大学時代、雄勝にボランティアにやってきたこともある。これが二度目の雄勝との出合いだが、雄勝硯生産販売協同組合に入って職人の道を目指そうと思ったのは、やはり消えゆく伝統をその手でつなげないかという想いもあったからだ。東日本大震災が起こったのは氏が中学生のとき。当時はまだ子どもだったから、ただおびえるだけでなにもできなかった。でも今は違う。
世界的に人気の雄勝石製品ゆえ、注文はひっきりなし。入社してすぐに即戦力として期待された。実践でどんどん技術を磨いていく。忙しいが、チャレンジの多い職場は遠藤氏にとって刺激的だ。まだまだ見習いの立場ではあるが、先輩たちは自分のアイデアにも耳を傾けてくれ、空いた時間に自分でなにかを作ってみるのも自由だ。「自分で考えたものを形にできる」。伝統を守る担い手として、そして、自己表現の場として。この仕事に大きな意義を見出している。

遠藤氏がデザインした、雄勝石を使ったアクセサリー。「若い人たちにも身近な存在になれれば」と、独自のアイデアで商品化を図る

進化する伝統芸・雄勝硯

近年ではテーブルウェアに力を入れている組合。遠藤氏もアイデアを出して、前菜盛り合わせなどに使えそうな多目的の石皿を制作した。まだ試作段階だというが、すでに注目され人気の兆しが見えているという。
古くから硯で知られた雄勝石が、テーブルウェアで新たな活路を見出しているのには理由がある。宮城県産業技術総合センターが計測した結果、陶器の皿と比べ保温性・保冷性に優れていることがわかったのだ。つまり、皿を温めた状態で料理を載せれば冷めにくく、逆に皿を冷やしてアイスクリームなどを載せれば溶けにくいというわけ。機能性が高いというお墨付きがあるわけだ。
「パカーンと石を割ってみると、それぞれその表面の“顔”が違うんです。同じものが二つとないのが、雄勝石で作られたお皿です」と、遠藤氏。雄勝石の楽しみどころを教えてくれた。伝統技術を継承しながらも、現代の需要に合わせて進化していく雄勝硯なのである。

遠藤氏も企画案に参加した試作品の多目的皿。食材を配置するのが楽しくなりそう!

企業情報COMPANY

企業名 雄勝硯生産販売協同組合
住所 宮城県石巻市雄勝町下雄勝二丁目17番地
TEL 0225-57-2632
URL https://www.ogatsu-suzuri.jp
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