老舗麹屋の意地
他所にできない甘酒を

山口こうじ店

うるち米以外の材料からできた甘酒を造るのに成功したのは、全国でもこの山口こうじ店のみ。どの商品も保存料や着色料などの添加物はもちろん砂糖も一切使用していない

「なにをやっても売れない」。そんなときこそ、量より質で勝負だ。老舗麹屋・山口こうじ店は長年培った独自技術と知恵を活かし、これまでにない甘酒を誕生させた。甘酒ブームに一石を投じる、新しいページの始まりだ。

熟練した老舗の味

時をさかのぼること148年。山口こうじ店は1873(明治6)年、時の政府から認可を得て、福島県白河市に店を構えた。日本古来の食材である味噌や醤油に不可欠な麹を作る、職人による専門店。「麹菌」という微生物を育てるため、温度や湿度の管理を徹底せねばならず、かつ蔵の環境によっても麹の味に差が出てくる。酒蔵や醤油蔵の多い福島県は麹屋の激戦区といってもいい。現代においても麹店は福島県に多いのだという。そんな土地で150年近くも栄え続ける麹屋の麹の味とは、推して知るべし、である。
 そんな山口こうじ店が甘酒づくりをはじめたのは今から50年ほど前のこと。麹菌のパワーで米のもつ糖度を最大限に引き出した、独自製法の甘酒。用いるのは麹と米と水のみ。驚くほど甘みが強く、米麹の熟練として最高の出来栄えだ。酒粕から作るわけではないため、アルコール分はゼロ。健康食品として古くから親しまれ、山口こうじ店の定番商品として地元はもちろん、全国に長らく愛されてきた逸品である。このところの健康ブームで甘酒も注目されるようになり、山口こうじ店に追い風が吹いていた。

1本1本飲み切りサイズ。この形状のボトルが最も麹の芳香が感じられるのだそう。山口こうじ店の麴の味と香りをしっかり楽しめる甘酒

生き残りをかけて立ち上がる

それが10年前、あの震災を節目に風向きが変わる。そう、2011年3月11日の東日本大震災である。地盤の強い白河市には大きな被害はなかったものの、福島県産というだけでぐんと売り上げが落ちる風評被害を経験した。安全性を訴えるため、全国を奔走したが「なにをやっても売れない」。近隣の麹屋が店をたたむ中、生き残る術を探る日々が続いた。
 甘酒ブームは続いているものの、このところ「甘酒を用いたレシピ」や「変わり甘酒」といったキーワードをよく見る。甘酒はいただきたいが、従来の甘酒をそのまま楽しむのとは違う流れができているのではないか……それ、つまり「甘酒に飽きたということでは?」。営業部長の山口和真氏は考えた。
 和真氏は老舗企業のいわゆる“〇代目”。だが、それを名乗らないのは、戦争の影響などで一時麹造りが途絶えたことがあるからだ。跡取りであり、麹を専門に研究したマスターでもある。そんな彼が着手したのは、どこにもない山口こうじ店だけのオリジナル甘酒の開発だった。

良質な麹食品に情熱を傾ける山口和真営業部長。風評被害がなおも続く中で、現状維持よりも前へ進むことを選択し新技術の開発を始めた

唯一のオリジナル甘酒の誕生

麹を知り尽くした麹屋がつくるオリジナル甘酒とは。本来うるち米を発酵させたものを甘酒と呼ぶが、和真氏が手掛けたのは米以外の材料から作る甘酒である。原料にまず選んだのは、甘みが強く「栗の王様」の異名を持つ利平栗。これを丸ごと米麹で発酵させる。だが、これがなかなかうまくいかない。栗の渋皮には抗菌作用があって、麹菌による発酵を妨げてしまうのだ。また、乳酸菌が発生して酸味が出てしまったことも。原材料と麹菌、そして水のみで造るくり甘酒が完成するまで200回近く実験を繰り返し、1年がかかったという。
 それからサツマイモ、カボチャ、枝豆(ずんだ)など、さまざまな原材料を用いたオリジナル甘酒が誕生。それぞれ素材の甘みを最大限に引き出すことに成功している。ちょっとおもしろいものでは、「トマト甘酒」なんていう意外すぎる材料の甘酒も商品化。こちらは、シーズンが終わりかけても熟さなかった青トマトは廃棄処分になると聞き、自治体と相談して開発したものだ。トマトのみではなく、うるち米も入っている。

150年近くも続いた老舗ゆえの技術。麹屋にしか造れないものを、という「麹屋のプライド」が、新しい技術を生んだ

驚くべき新食感

開発に伴い、パッケージも一新した。以前はパウチバッグに詰めていたが、瓶詰めに。1回で飲み切るサイズで、気軽に毎日いただけるようにした。この縦長で六角形の容器から直接飲むことで麹の香りがたち、より甘酒のおいしさを楽しめるようになるという。
 実際にくり甘酒を飲んでみると、まずは麹の香りが前面に押し寄せてくる。まさに山口こうじ店の麹の味を心ゆくまで堪能する一瞬。甘酒とはいえ米麹の原料以外の米を使っていないため、つぶなどはなく実になめらかでスムーズなのど越し。うるち米の甘酒と比べやさしい甘さが印象的だ。のどを通ったあとには栗の風味が余韻として残り、上品な和菓子をいただいたような味わいに驚かされる。
 一方、トマト甘酒も試してみた。こちらは青、赤、黄の3種類あり、赤は熟したトマト、黄は希少なゴールドトマトを原材料にしている。うるち米も入っているのでつぶがあり、トマトの果実も見える。こちらも麹の香りを楽しめるが、トマトや米の食感がしっかり残っているので食べ応えがある。フルーツ感もあり、こちらもかなりの新食感だ。

青トマト甘酒にはふっくらとした米粒としゃきしゃきとした食感の残るトマトが。甘酒の概念を打ち破る、新しい甘酒スタイル

老舗麹屋が拓く新しい麹スタイル

「どうしても他所と違うものを作りたかった」。開発だけで1年を要した新しい甘酒スタイルは、独自製法によるものとあってそう簡単に他社が追随できるものではないだろう。だが、ゆくゆくはこれがもうひとつの麹食品として定着するかもしれない。なにしろ、原材料の栄養素や利点はそのままに、麹をいただくことができるスーパーフードなのだ。しかも、さまざまな味があるので毎日飲んでも飽きることはない。より楽しい麹ライフを期待できそうだ。
 「今はこんにゃくの甘酒を開発中です。発酵させると気になる匂いも抑えられるし、カロリーが低く食物繊維の多い甘酒ができるのでは」。商品化されるのが待ち遠しい。

新しい甘酒もさることながら、最近生産者が減っているという北海道・東北地方の伝統的な発酵食品「三升漬け」も現代風にアレンジして販売。こちらは米麹と大豆麹を使用。ピリ辛&魚介の深みのある味わいでご飯が進む!

企業情報COMPANY

企業名 有限会社山口こうじ店
住所 福島県白河市東釜子字本町7
TEL 0248-34-2728
URL https://zunndamiso.raku-uru.jp/
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/120.html
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