いわきで作ったものだからこそ
祖母の味が特産に

長久保食品

長久保のしそ巻をイメージしたかわいいパッケージの新商品。塩分はかつての10分の一で、現代の健康志向や若い人にもアピールできる商品を開発している

単なる漬物以上においしいものを。ひと手間かけることで多くの人の記憶に残った祖母の味はいつしかいわき名物となっていた。時は移り、ごはん離れが著しい今、その味と思い出を引き継ぐために。

炭鉱の町、いわき

『長久保のしそ巻本舗』の店舗のドアを開けようとしたら、「Aloha」の文字が目に入ってきた。そうだ。ここはいわき市なのだ。かつて本州最大の炭鉱があった町として知られる。
 時代の移り変わりとともに石炭の需要が減り、常磐炭田は規模縮小から閉山へと徐々に終焉へと向かっていく。職を失うことになる鉱夫やその家族の生き残りをかけてできた『常磐ハワイアンセンター(当時)』の生い立ちにまつわる奮闘を描いた映画『フラガール』は日本アカデミー賞で最優秀賞を受賞。いわき市の名を一気に有名にしたのではないだろうか。作中で、炭鉱で働く人々の様子が描かれる中、きっとそこに陰ながら登場していたであろうと想像できるのが、長久保食品のしそ巻だ。

沢庵をしそで巻いた、いわき名物。昔ながらの状態で売ってほしい、というお客の声にこたえ、ひもで留めてあるものとそうでないものを販売。

もう一度あの味を

いわき名物、長久保のしそ巻で知られる『長久保食品』はその昔、今でいうところのコンビニのような存在だった。創業は昭和9年。炭鉱で働く労働者のためにあらゆる日用品を取り揃え、彼らの食欲をも満たす役割を担っていたという。当時店を切り盛りした長久保ツネさんは現社長、篠原福一氏の母方の祖母にあたる。買いに来てくれるお客さんのために、「ちょっとおいしいものを」としそを巻いた漬物を作ったのが、現在の同店の原点である。いつも来てくれるお客さんのために、とひと手間かけたツネさんの漬物は、地元の人々の食卓にはもちろん、炭鉱の飯場でも日常的に出されてきたのだろう。炭鉱が閉山したのち、ちりぢりになった鉱夫たちから「またあのお漬物が食べたい」と便りをもらうようになり、次第に漬物一本に業態が変わっていったのだという。

長久保ツネさんと旧店舗。たくさんしそを巻けばその分おいしくなるけれど、歯で切れにくくなり食べにくいから、と“黄金比率”を考えたという。いつもお客のことを考えている人だった

震災がもたらした大きな決意

祖母から母へ、母から息子へと継がれた長久保食品。篠原氏が社長に就いたのは40年ほど前のことだ。社長である以上、社を存続させなくてはならない。世間の健康意識の高まりに応じて塩分を減らしたり、ごはん離れが進む世代に向けて新しい商品を開発したり、とさまざまに努力もしてきた。自分の代で終わらせてはならない、という使命感で仕事に打ち込んできたが、2011年の東日本大震災では大きな意識の変化があったという。
幸い、震災も原発事故も、店舗や工場に累を及ぼすことはなかったが、東京の大手取引先から「これからはフクシマの食品は仕入れられない」という連絡を受けた。かなりの痛手であったが、どこも同じような状況。耐えるしかない。しかし、その翌月には同じ会社から「やはり長久保食品のしそ巻は評判がいい。工場の移転費用もその用地も当社で用意するから、ほかの土地へ引っ越さないか」という打診があった。聞けば、お客から長久保のしそ巻を惜しむ声が多かったのだという。篠原氏は考えた。1カ月ほど悩みに悩んだ末、東京へ赴き「いわきから他所へ移るつもりはありません」とはっきりと断ってきた。帰りのスーパーひたちではこの先のこと、従業員のことを考えるとうなだれるしかなかったという。

食べやすく細切りにした沢庵にしそを手で巻く、その目にもとまらぬ早業に驚かされる。昔ながらの作り方は今も健在だ

長久保のしそ巻は思い出そのもの

「炭鉱がなくなった後も、当社の漬物を遠くから買い求めてくれた人々のことを思ったのです」。当時を振り返って、篠原氏は言う。「どこで作っても同じ漬物、じゃない。長久保のしそ巻は“いわきの味”。いわきの思い出がつまっていて、食べれば幸せな食卓を思い出すと言ってくれるお客様がいる。私たちは、ここを動いてはいけないと思いました」。
 それから、篠原氏の経営戦略は“いわきの味”一本に定められた。それまでは意識していなかったが、長久保食品がずっと続けてきた「いわきの味を伝える」こと。それが同社の企業理念といってもいいだろう。これまで一度もブレることなく、祖母の代からずっとずっと伝え続けてきた味。それこそが風評被害の窮地から長久保食品を救ったものでもあったのだ。

長久保食品 代表取締役社長の篠原福一氏。祖母の味を、店を、そしていわきを守り抜く決意は固い

伝えつづける、いわきの味

その経営理念は新商品にも活かされている。漬物の技術を用いてつくられたピクルス(酢漬け)『おここさん』は、「心地よい酸味(ここちよいさんみ)」の意味を込めているというが、漬物のことを「お香々(おこうこ=香の物)」とも呼ぶことから命名されているのだ。すべての素材はいわきのものを用いており、興味ぶかいのはフルーツ王国福島らしく、フルーツのピクルスも多く取り揃えていること。パンにも合う漬物ということで、クリームチーズとあえてバゲットに乗せたり、ヨーグルトにトッピングしたりと、デザートやおやつ感覚でもいただける。漬け汁もフルーツのほんのりとした香りが移り、健康的な飲み物に。余すところなくすべて楽しめる、新感覚のピクルスである。
 「これからは酢もいわきの材料で作るなど、もっとこだわって作りたい」と話す篠原氏。家業だけではなく、いわきの存続と復興のために革新を続けていくつもりだ。

いちごのピクルス。いちごの香りがさわやかで、甘酸っぱくさっぱりしたスイーツのよう。ほかにも桃やあんずなど、福島ならではの果物のピクルスがある
「漬物」と一口に言っても、商品ラインナップが実に多く、そのすべてが本店には勢ぞろいしている(写真の商品は一部)

企業情報COMPANY

企業名 有限会社長久保食品
住所 福島県いわき市好間町中好間字鍛冶内28-2
TEL 0246-36-3999
URL https://www.nagakubo.net
商品ページ 長久保のしそ巻 ミニパック1本入れ 2連10ヶ
https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/042TM-2.html
おここさん いちごのピクルス
https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/042TM.html
おここさん ふくしまの果物で作ったピクルス3個セット
https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/100.html
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