出産から食卓まですべてを一手に
新しい食文化を岩手から

パティスリー レ・ド・シェーブル(しあわせ乳業株式会社)

山羊ミルクスイーツのパッケージには山羊のイボンヌちゃん。宮古駅前の店舗にも描かれており、すでに宮古の新しい“顔”だ

「真の復興に貢献するのは、その土地でできたものの商品価値を知ってもらって、リピートしてもらうこと」。宮古産の山羊ミルクが、じわじわと人気を博している

驚きの山羊ミルク体験

フランス語の「LAIT DE CHÈVRE(レ・ド シェーヴル)」とは日本語に訳すと「山羊のミルク」。『しあわせ乳業』が展開する、この名を冠したショップはリアス線宮古駅のすぐ近くに2店舗ある。ひとつはパティスリー、もうひとつはカフェも併設するブーランジェリー(パン屋)。もちろん、どちらも山羊のミルク専門店だ。

人気(ひとけ)もまばらな宮古の駅周辺に、燦然と輝くおしゃれな店舗。ただのブームで終わらない、宮古から発信する新たな食文化の“本拠地”だ

山羊ミルク製品は世界的に見ても珍しくはない。なにしろタンパク質やカルシウムなどの栄養素が牛乳よりも豊富とあって、特に現代においては美容や健康を気遣う人に人気があるのだ。だが、独特の匂いがあるので好き嫌いがパッキリと分かれる食材でもあり、日本ではまだあまり親しまれていない。その山羊ミルクで作られたプリンとはいかに? と、むすっとした表情の山羊「イボンヌちゃん」のイラストのついた瓶入りプリンを恐る恐る口に運んでみると……ん? これは……!? こっくりと濃厚な味わいでありながら後味がさっぱり。濃厚味の乳製品にありがちな乳くささはなく、それでいて山羊くさくもない。え? これが岩手の山羊ミルク???

脂肪球”が牛乳の10分の1とのことで、コクがあるのにさらっとしていて飲みやすい山羊ミルク。生クリームなどもきめが細かくなるそう

ロバが連れてきた僥倖

『LAIT DE CHÈVRE(レ・ド シェーヴル)』オーナーの前田英仁氏は、ビジネスマンだ。が、20年前に宮古の高台に投資のつもりで農場を購入したが、視察に通ううちにこの土地の魅力に憑りつかれ、とうとう東京から移住してしまった。そんな前田氏が山羊ミルクに出合ったのは、まさに僥倖といえる。
前田氏は若いころからずっとロバが好きだった。あの頑固な性格。マイペースでなにも言うことを聞かないのに、聖書にも登場し「背中に十字架の紋様がある」とされる聖なる動物。せっかく農場を買ったので、それならロバを飼いたい。というわけで、ロバを繁殖している老人のもとへ、ロバを買いに行ったところ、“抱き合わせ”で山羊を2頭買ってほしいと持ち掛けられた。どうしてもロバが欲しかった前田氏は、しぶしぶ山羊も購入。しかしつがいだった山羊は翌年、かわいい子ヤギを産んだ。
お母さん山羊は乳を出す。この乳を飲んでみた前田氏は、衝撃を受けた。「なにこれおいしい」――。そこから、前田氏は山羊ミルクにのめり込んでいったという。

前田氏が溺愛するロバのポッキーくん。彼のおかげで山羊ミルクに出合えた、といえなくもない

自然だからこその強み

「ウチの牧場は、ほぼ放し飼い。山羊たちは山の中を好きに動き回って遊んで、夜になると小屋に帰ってくる」。『しあわせ乳業』の山羊ミルクにくさみがないことを、前田氏はそう分析する。人工飼料ではなく自然に生えた牧草を食べ、東京ドーム14個分という広い農場でのびのびと自由気ままに過ごしている山羊たち。たしかに、小屋の中でぎゅうぎゅう詰めで育てられるよりはいい状態であるのは間違いない。今や400頭に増えたという山羊たちは毎年たくさんの乳を出す。
自然にまかせて育てているため、ミルクの味は四季によって異なる。だが、いつも同じでないことはむしろ『しあわせ乳業』の“強み”だ。「山羊たちはいつも好きなものを食べているし、夏と冬でも栄養素の含有量は異なる。自然であれば当たりまえのことだが、年を通じて同じにしようとすれば人工的に調整するしかない」。それをしないのが、『しあわせ乳業』。自然ならでは、この土地ならではの味にとことんこだわっている。

山間にある農場。山羊たちはてんでバラバラに放牧されているが、前田氏が呼ぶと一斉に集まってきた

真の復興に向けて

店舗のある宮古駅周辺は、2011年の東日本大震災のとき、津波が到達したエリアでもある。前田氏の農場は高台にあるため難を逃れたが、沿岸部にあった倉庫は被害を受けた。また、従業員の家族にも犠牲者が出たこともあり、前田氏にとっても震災は他人事ではなかったという。
「被災地の宮古」ではなくて、新しい食文化の発信地として全国にその名をとどろかせよう。前田氏の目指す復興とは、長期的かつ永続的なものだ。被災地だからと同情票で注目されようとは思わない。岩手でトップのパティシエ、シェフを集めて最高のスイーツを、と開発してきた。そしてとうとう、今年(2020年)東京で開催されたフードショーで『バスク風プレミアムチーズケーキ』が「バイヤーズセレクション」の最優秀賞を獲得。「宮古の山羊ミルク」が全国から注目されるようになったのである。
宮古で生まれて育ち、ひとつひとつ手作りされてさまざまな形で家庭に届けられる山羊ミルク。そのすべての行程を一手に担っている『しあわせ乳業』だが、「山羊ミルクのよさを知ってもらって、いろいろなところでどんどん使ってもらいたい」と話す。来年は東京にも『LAIT DE CHÈVRE』の店舗を構えるといい、日本人の食卓に山羊ミルクが当たり前に登る日もそう遠くはない。

濃厚な味わいの『バスク風プレミアムチーズケーキ』。もったりせず後味もよいのが山羊ミルクスイーツの特徴。全国のバイヤーに支持されたのも納得の逸品
真の復興とは、と真剣に考えつつも宮古での生活を楽しむ『しあわせ乳業』オーナーの前田英仁氏。宮古を拠点とした新文化を次々と提案する

企業情報COMPANY

企業名 パティスリー レ・ド・シェーブル(しあわせ乳業株式会社)
住所 岩手県宮古市田老小堀内19-15
TEL 0193-87-5959
URL https://yagimilk.jp/
商品ページ https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/014TM.html
https://umaimon.smrj.go.jp/product/detail/58.html
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